第22回総会 ・研究大会(自由論題の部)
日時:2014年6月14日(土)12:30〜17:00
会場:大東文化会館403号室
会場費:300円
プログラム
12:30 理事集合・会場設営
13:00〜13:50 総会(会員のみ)
13:50〜14:00 休憩
14:00〜17:00 自由論題(どなたでもご参加いただけます。)
タイトル:社会理論が精神分析を参照することに意義はあるか
─エーリッヒ・フロムのナルシシズム論を例として
報告者:櫻井隆充(慶応義塾大学大学院)
報告概要:本報告は、エーリッヒ・フロム(Erich Fromm, 1900-80)の精神分析 17:30〜19:30
理論の中核を担うナルシシズム論に焦点をあて、社会科学的視点から
その現代的意義および有用性を探ろうとするものである。フロムのナ
ルシシズムに関する理論は、彼の精神分析学において重要な役割を担
いながらも、フロム研究においてほとんど取り上げられることがない
だけでなく、精神分析においてもこれまでまともな扱いを受けたこと
がない。このことは、彼の精神分析理論そのものが学際的な理解を要
求するため、専門分化の激しい今日の学問的情勢からすれば、驚くべ
きことではない。そのため、ごく少数の社会的関心の強い精神分析家
および精神分析に造詣が深い社会理論家だけがフロムの精神分析に関
心を持つことになる。
とはいえ、私の見方では、フロムの精神分析理論は自身の社会理論
の核心的存在であり不可欠なものである。中でも、彼のナルシシズム
論は色々な意味で極めて興味深い。その一つが、現代社会をナルシシ
ズムと社会経済構造との関連で理解しようとするフロムの方法であ
る。私の見方では、これは彼の二つの概念によって、暗示的に示唆さ
れている。一つは「非生産的姿勢」(non-productive orientations)
であり(この性格類型には、「受容的姿勢」(receptive
orientation)、「搾取的姿勢」(exploitative orientation)、
「貯蓄的姿勢」(hoarding orientation)、「市場的姿勢」
(marketing orientation)の四つが存在する)、もう一つは「持つ
様式」(having mode)である。フロムにおいて、これらの概念は、
それぞれ「生産的姿勢」(productive orientation)および「ある様
式」(being mode)と対になったものであり、現代社会すなわちフロ
ムのいう「産業サイバネティック社会」(industrial cybernetic
society)では、前者の二つの性格様式である「非生産的姿勢」
(「市場的姿勢」)および「持つ様式」が支配的になるという。
上記の事実から明らかなように、概して、フロムの社会理論はすべ
て彼独自の性格類型論によって特徴づけられている。すなわち、この
ような性格類型によって、フロムは現代社会を理解するのである。な
なお、彼のこの類型論を構成する重要な概念がナルシシズムである。
フロムにおいて、ナルシシズムとは人間の最も根源的な欲求でありな
がらも、乗り越えなければならない厄介な存在である。すなわち、彼
によれば、人は本来的に自己愛的でありながらも、すべての人間は己
の自己愛を克服する必要がある。一言でいえば、フロムにおいて、ナ
ルシシズムは極めて弁証法的な存在として認識されている(例えば、
彼のもっとも有名な『自由からの逃走』において、ナルシシズムの政
治的含意が「デモクラシーとファシズム」という弁証法によって暗示
的に示唆されている)。しかし、フロムは人間の最も根源的な欲求と
してのナルシシズムを否定するために、この弁証法的矛盾を止揚する
ことができない。すなわち、われわれはこれを否定せず、反対に受け
入れることによってその克服を図る以外方法がない。私の意見では、
この極めて難しい問題を考えるためには、フロムを受容しながらも、
彼の視座を乗り越えることができる別の精神分析的視点および方法が
必要である(本報告は、この論点には言及しない)。
本報告は、フロムのナルシシズムの概念に焦点を当て、彼がどのよ
うに「ナルシシズムの弁証法」と格闘するに至ったかを検証する。こ
れによって、フロムの社会理論の可能性およびその限界を確認するこ
とになる。なお、この議論は「社会理論」という学問分野が精神分析
を参照する意味を与えるはずである。すなわち、本考察は、なぜ社会
理論が精神分析を必要とするのかということを考えるための一つの論
考である。
懇親会