ニュースレター98号(2010年12月)

ホームページでは隔月で発行するニュースレターの一部を紹介しています。すべてをお読みになりたい方はフットルースまでご連絡ください。印刷物の他、データ版のメール送付も行っています。

98号の内容

1頁 コラム「おそどまさこさんのツアー」
2頁 DIP(障害受容講座)のこれまで、そしてこれから 
4頁 小山恵美子のマンハッタンレポート・その13 
6頁 一見穏やかなmic の子育て日記 ~連載第一回~
8頁 手話通訳なんて仕事をしています(3)「書き言葉」

手話通訳なんて仕事をしています(3) 「書き言葉」

夏の終わりに北海道の二部谷へ行ってきました。 二部谷はアイヌの聖地といわれているところで、アイヌに関する資料館がありま す。その中で萱野さんの所に行きたかったのです。彼はアイヌ語の保存にも熱心で いらっしゃいました。 アイヌ語が文字を持たず、ユーカラによって口承されることは私達には既知と なっています。物語が文字で読める知里幸恵の『アイヌ神謡集』も工夫によって音 をローマ字で表記し、日本語に翻訳されたものです。 手話も文字を持たない言語、です。その前に、音を持たない言語でもあります。 そのことをもう一度考えたくて、そしてその助けが欲しくて二部谷に行きたいと 思ったのです。 アイヌ語の保存に「録音」が使われることは周知のことです。手話の保存には録 画が使われます。知里幸恵はアイヌ語の音を表音文字を借りて紙に書き記す工夫を しました。そして意味を訳しました。 誤解されると困るのは、手話は文字を持たない言語ですが、それを操る聞こえな い方々は文字を持たない人たちではありません。彼らは書記日本語を使います。す るとそこには翻訳の操作が発生しているのではないかという想像が生まれます。 ここまで書いて、整理をしなければいけないことがあることに気付きました。手 話を使う聞こえない人達は二種類に分かれるということです。 初めから音の言葉が聞こえなくて、そうではない手話が一番楽にコミュニケーションのキャッチ ボールができる人達と、音の言葉が聞こえなくなってそうではない手話に助けてもらって音の言葉 を見える言葉に変換したい人達です。手話を母語にする人達と日本語を母語にする人達。手話に出 会った時に、日本語を獲得していない人達と、獲得済みの人達。書き文字を持たない言葉と、書き 文字がくっついている言葉。 聴覚障害は音声日本語へのアクセス障害です。けれども、その中には音の言葉だけでなく書く言 葉にもアクセス障害を持つ方々と、書く言葉を歓迎する人達がいます。 萱野さんのところの正面を入ったすぐのアピールに次のような文章を見つけました。 「(アイヌ語学習は)2000 年現在では14 のウタリ協会支部で実施されるようになっています。 言語は教室・講座のようなフォーマルな場だけでなく、家庭や社会の実際の生活を通して習得し ていくことが自然なものですが、アイヌ語学習への関心が高まる中、若い世代にも日常の暮らしの 色々な場面でアイヌ語を使い、活かそうと動きが強まっています」 ふと、思いました。 私のような手話通訳をしたいと思い学習をするものにとって核心をついたアドヴァイスであると 同時に、最初から音の言葉が聞こえない人達の言葉の学習にも大変示唆の多い言葉だと。 アイヌの親はアイヌですし、アイヌの子はアイヌでしょう。しかし、聞こえない人の親は聞こえ ない人でないことが多いし、聞こえない人の子は聞こえない人でないことも多いのです。 ここで、聞こえない人の子として生まれた聞こえる友人に聞いたことを書きたくなりました。で も紙面が尽きてしまいました。次回に書かせてください。(小野孝枝)