DIP(障害受容講座) > 6回シリーズのDIPを実施


アクサ生命でのDPIの様子

昨年の春、フットルースがメインとなってアクサ生命でDIPを実施して以降、アクサ生命人事部のダイバーシティ推進室が中心となって、自社に勤める障害当事者を講師にたてる試みが行われてきました。そこで今回の6回シリーズのDIP(6月中旬から7月にかけて)は、視覚障害と聴覚障害の部分をアクサの社員がカバーすることになり、フットルースからは私(青海)だけが車いすユーザー部分をカバーするモデレーターとして加わることになりました。
 身体障害、視覚障害、聴覚障害と、障害別のデモンストレーション、想像してみよう、まとめ、という構成の大枠はそのままです。こうしたプログラムに参加するのは初めて、という社員の方々が集まることを聞いていたからです。このDIPで伝えたかったことは、障害を持つ個人という視点です。それこそがフットルースとして大事にしてきたことです。職場という一つの場を障害のある人とない人が共有するには、まずお互いに個人として向き合うことが重要だと考えるからです。わからないことはきちんと訊ねる、障害のある自分のことをきちんと話す、それがコミュニケーションの基本です。

 個人的には、梅雨の時期だったので、雨が降らなければいいな、とそれが気がかりでしたが、雨にたたられたのは1回だけでした。こうして6回も続けてやると、プログラムとしてはおおむね好評だったとはいえ、毎回、毎回、改善するべき課題が見えてきます。多くはモデレーターとしての私の力量に関係していたと思っています。話していることとパワーポイントとの同期の問題といった初歩的なことから、自分には当然のことだったりするので、言葉足らずになったり、力点がぼけたり、まさしく、障害とほとんど無縁で生きてきた人たちに対する私の想像力が問われていたと言ってもいいでしょう。
 それでも1回ごとに参加者のアンケート結果を共有させてもらえたので、次回に向けて工夫したり、方法を変えてみたりすることができました。それが功を奏することもあれば、裏目に出ることもありました。もう一つわかったのは、参加者のノリを創りだすには技がいるなということ。エンタティメント性、とでもいうのだろうか。(まだまだ修行が必要です。) 参加者のノリがいいと、こっちもノレるということも発見しました。

「私の想像力が問われていた」と先に書きましたが、参加者の想像力を問われるのが、最後のエクササイズ、「想像してみよう」です。朝起きてから職場について、業務を開始するまでの半日の様子を朗読とパワーポイントで流し、目を閉じて、自分に振り当てられた「障害者」のつもりで想像してもらう。これがけっこう難しいらしい、ということもわかりました。このことは、そのあとのグループ討論とその発表でわかります。「想像」の翼を広げるにはある程度の経験の貯えが必要なのかもしれない、と、自分のことも考えて、そう思いました。ですからこのエクササイズは大いに改善の余地ありです。私自身の想像力を試す意味でも、これからの課題です。

ここからは、障害者雇用にかんする私の雑感です。アクサではいま、法定雇用率の達成をめざして、障害者雇用に力を入れているようです。数年前に、フットルースのプログラムに参加してくれたことのある女性で、電動車いすを使用している大学生が、就活の後、このアクサ生命への入社が内定していました。もう一人、視覚障害の学生も別の企業への就職が内定していました。
プログラムを終えてから、アクサの人事部の男性、Sさんと少しお話ししました。
私:「Yさんの就職内定が決まって、よかった。」
Sさん:「そうですね。いま各地の店舗で障害者を雇用しているんですよ。みんな、うまいことなじんで定着してくれればいいんですがね。」
私:「ほんとですね。私の若いころにはとても考えられなかった選択肢です。」
Sさん:「そうでしょうね……」
Sさんは私より一回りほど年下かな、とお見受けしましたが、私の若いころの社会状況はご存知のようでした。

このところ、日経ビジネスオンラインを読んでいます。そのなかに「障害者の輝く組織が強い」というコラムが何回か連載されていました。むろんこの中には2001年から短期間で障害者雇用率をあげてきたユニクロの取り組みにかんするコラムもあります。それを読むと、こうした取り組みにはトップの決断がいかに重要かわかります。たとえば、障害者雇用についての柳井正氏の発言に次のようなことがあります

 「障がい者雇用というものは、トップがきちんと決断をしなければ、なかなか進むものではない。僕自身の経営判断として『全店舗に最低1名は障がいを持った方を雇用する』という方針を打ち出した。僕自身だけでなく、店舗のトップである店長が、本当に採用しようと思うことが必要だったからだ」

この発言から思うのは、「障害者権利条約」の批准に向けた法制度改革に着手するはずの文科省のトップである大臣の、障害のある子とない子が共に学ぶインクルーシブな教育制度への転換にたいして、どのような覚悟を持って臨み、それを部下に伝えているのか、といったことへの疑問です。文科省のトップは民主党の川端達夫氏だが、この問題にかんする彼の見解はわからない。そのなかで発言するのは特別教育支援課の人たちばかり。しかも、インクルーシブな教育制度への転換に「危機感を持って」。それ自体が、インクルージョンの心意気とも言える、「どんなことでも、やってみるなかで方法論を編み出してゆく」、そうした姿勢をトップは持ち合わせていないという証ではないのだろうか。

(青海)